B:清白の猛獣 ホワイトジョーカー
「ホワイトジョーカー」は、その名のとおり、世にも珍しい、白いスクウィレルよ。しかし、その特異な毛並みが原因で、同族たちからは、のけ者にされてきたみたい。そして生き抜くため、凶暴さを身につけたのね……。
~手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
ベントブランチの酒場で年配の猟人から話を聞くために3人でテーブルを囲んでいた。
酒場は石積みの擁壁の一部をくり抜き、その上にあるサイロの地下室のような形で土地の高低差を上手に利用して作られている。昼間でも明りの入らない店内は壁と各テーブルに灯された燭台だけで明りを採っていて薄暗い。飾り気のない店内は一見みすぼらしいが、黒衣森で採れた山菜をふんだんに使った料理はボリュームもあり美味だった。
食事をご馳走しながら物静かなこの老人の口を軽くするため地酒を頼んだ。あたしも相方もお酒は苦手だけど、情報を得るために我慢して飲むこともある。大人として当然の嗜みだ。
酒がテーブルに運ばれてくると3人は形ばかりグラスを合わせた。なんとか寡黙な老人の口を開かせようとあたしも相方も頭をひねって色々な話題を振ってみたがこの老人、なかなかの強敵だった。
話題に詰まる度に次の話題をひねり出すため、また間を持たせるために地酒を喉の奥に流し込んだ。
2時間ほどもそうしただろうか。ようやく老人が重い口を少しづつ開き始めた。
手ごたえを得た女剣士が相方の黒魔道士の方を笑顔で振り返るとすでに黒魔道士は後ろに首を反らせ、大口を開け、ちらっと見えるのがチャームポイントだと日ごろから豪語する牙を剥き出しにして夢の世界へと旅立っていた。
あれだけ飲んだふりだけしてればいいんだからねと念を押したのに…。女剣士は呆れ顔で溜息を吐いた。
「人がな、自分と異質な者や理解を超える者を忌み嫌うのと同じように魔物もそういった者を排除しようとするらしい。」
老人がボソボソ話し始めた。女剣士は慌てて老人の方を向く。
「奴は突然変異で白く生まれた、所謂アルビノというやつだ。ほかのスクウィレルと何にも違わん。だがな、体の色が違うというだけであいつは群れからも、親兄弟からも捨てられたのさ」
そう言うと老人は地酒をまた一くち口に含んだ。
「なんでそれが分かるん?」
女剣士が聞いた。老人は俯き加減な顔の角度は変えずに視線だけ女剣士に向けた。
不味い事を聞いたかな?女剣士がそう感じるほど長い沈黙の後、再び酒を口に運んだあと老人はすっぽり袖で隠れた左腕をテーブルに置くと袖をまくって見せた。
女剣士はあっと息が漏れる程度の小さな声を上げた。老人の腕は肘から先が細く何本かに分かれ、それが蔓科の植物のように絡みついて一本になり、その先にある掌らしき場所からは細かく14~5本の真ん丸な指が木になる果実のようについていた。
「黒衣森の呪いだと言われている。儂もあいつと一緒なのさ。だから周りからどう扱われているかは見ていればわかる」
そう言うと長い袖で左腕を隠した。
「あいつは誰にも頼らず生きるために他者より強く、大きくなる必要があった。ただそれだけだ」
老人がポツリと言った。その言葉を聞いた女剣士の体がビクンと強張る。
あたしも一緒だ…。戦災孤児だった女剣士は人身売買の商人に拾われ、ある村へと売り飛ばされた。そこは戦闘民族と呼ばれる集団の村だった。慢性的な成り手不足を解消するため身寄りのない子供を買い取って狂ったように訓練させ、集団を維持している。そんな村に引き取られた彼女の生きる術は一つ「生きるために他者より強くなる」ことだった。運よくなのか、悪くなのか、仕事の依頼で村を離れているうちに敵対勢力によって村は滅ぼされ、自分は自由になれた。世間など右も左も分からず、困っていた所をある旅の男に拾われ今に至る。だがあの時村が滅んでいなかったら?考えただけでも体が震える。
黙り込んで真顔で震える女剣士の様子に何かを察したのか、老人は皺だらけの右手を女剣士の手に重ねて言った。
「彼は邪な存在ではないよ。純粋な存在だ」
生きる事しか考えず、生きるためにただ純粋に全力を尽くした。なんて事のない言葉だ。だが、自分もそうであると言われたような気がした。どこかで自分のような生い立ちの者が大切な人を見つけ幸せに暮らしていいのだろうかと心の奥底で感じていたのだが、その一言で何かが救われた気がして涙が溢れた。
ふと隣をみると酔い潰れた相方がテーブルに突っ伏して涎を垂らしていた。